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仮名と漢字、「女文字」と「男文字」
仮名」とは女文字とも呼ばれ、平安時代の「源氏物語」や「枕草子」などの女流文学が原点となっている。当時、「男文字」とされた漢字を書くことを制限されていた女性の間で仮名をどれだけうまく書けるか競いあったことも背景にある。例えば女性がしたためる恋文では仮名交じりの文章をどう書くかが重要な役割を持った。男性と会話をすることや、自分の姿を見せることが恥ずかしいとされた時代だけに書く文字が美しければ、姿も美しいと思われた。それゆえ、流麗で艶っぽく、たおやかな文字を金・銀箔や模様をあしらった紙に記し、センスの良さを体現した。

一方、公文書や仏教の経典などに用いられた漢字は男文字と呼ばれた。武士や僧侶が威厳たっぷりに書くために練習した。

そもそもの担い手が異なっていた仮名と漢字だけに、仮名を追求することは、日本文学史を紐解き、古きゆかしい女性文化を再考することに繋がる。

平仮名は漢字を崩してできたものだというのは日本人なら周知のことだが、1900年までは少なくとも数百文字、異体字を含めれば数千文字(角川書店「書道事典」より)ほどあったというのは意外と知られていない。漢字が中国から入ってきた後、日本人は漢字の読みを利用して日本語を表記しようと試みた。現代の「あ」という文字は「安」という漢字を崩して出来た文字だ。しかし、19世紀までは「安」「阿」「亜」「悪」「愛」などを崩した平仮名も存在したのだ。しかも宮中の女性が競い合って他人が読めないような平仮名を書いた結果、同じ「安」という漢字をもとにした平仮名でも何パターンもの書き方が生まれた。

つまり「あ」という音を表す平仮名は現代日本にはひとつしかないが、かつては無数に存在していた。しかも、どのような時にどの文字を使うか明確な文法がなかったため、平仮名交じりの文章を解読するのが非常に困難になった。

明治維新後、教育改革を目的に明治政府は平仮名の簡略化などを盛り込んだ「小学校令施行規則」を制定し、今使われている「ひらがな50音」を作成した。選定から漏れた残りの数千もの平仮名は、今日では「変体仮名」と呼ばれ、蕎麦屋の看板など特殊なケースで用いられる以外、日常生活で目にする機会もごくわずかとなった。

だが、数千あったかつての変体仮名の書道にこそ、浮世絵の構図などに通じる世界に類を見ない日本独自の美意識が濃縮されていると言っても過言ではない。

最近、日本文化の海外進出が著しい。ベルリンの本屋には日本の漫画のドイツ語訳がズラリと並び、パリでは和食レストランが軒を連ねる。文字にも関心が高 い。漢字のタトゥーを入れるのが流行り、自分の名前に漢字の当て字をするサービスまでお目見えした。しかし、目につくのは残念ながら漢字ばかり。日本文化 の原点である仮名は驚くほど知られていない。仮名は日本の文化史に根ざした独自の美意識に基づいた芸術で、ゴッホやドガに影響を与えた浮世絵とも共通 点が多い。にもかかわらず日本独自の文化ではない漢字のみが「日本の文字」の代表格のように認識されているのは非常に残念だ。

仮名は、昔の和歌や恋文の文面からにじみ出る空気を感じ、当時の書き手の気持ちに自分の感情を通わせることで、はじめて真髄に触れることができる。 2001年から旧中山道700キロを4年かけて歩いたのも、日本人である自分にとって仮名を再発見するのに役立った。古地図を手に街道を歩き、歴史資料館 や城などで保存されている古い手紙や日記、路傍の石碑に彫られた文字などを読むにつれ、ますます仮名の魅力に取り付かれた。 仮名の美しさや魅力を、外国人や仮名の存在自体を知らない日本の若者にも少しでも伝えたいと思う。


撮影協力:建仁寺


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